2020年03月02日

横浜とIR

  平成30(2018)年7月、日本でもIR整備法が成立し、令和3年1月4日から7月30日まで認定申請を受け付ける案が公表された。開業は2020年代の半ばになる見通しである。
  IR整備法とは、正式には「特定複合観光施設区域整備法」と言い、IRとはいわゆるカジノを含む統合型リゾート施設のことである。

  今後のスケジュールとしては、第1段階として全国で最大3ヵ所が認可される予定で、認定申請はIRの誘致を希望する都道府県と政令市が行う。
  第1のステップとして、各自治体はIRの運営を希望する国内外の企業または企業体から提案書を公募し、その中から運営企業もしくは企業体を選定し、共同して国に認定申請する。
  第2のステップは、国土交通省の有識者委員会が審査して国交省が日本の中でどこに設置すべきか検討し、IR設置を希望する3か所の自治体を導入地として選定する。

  横浜市は、令和元年8月22日に、平成29年の市長選前から「白紙」としてきた林文子市長が「将来に強い危機感がある。横浜の飛躍にはIRが必要だ」と、カジノを含む統合型リゾート施設の誘致を、首都圏の自治体では初めて正式に表明した。

  具体的には、令和2年度の早期にIRの実施方針を公表し、同年度に事業者を公募・選定する。その後、IR事業者とともに国に認定を申請する「区域整備計画案」を策定し、市議会の議決を経て令和3年度に国に対して認定申請をする方針である。

  総額4億円に上るIR関連費のうち、IR事業者の公募・選定や区域整備計画の策定に2億2千万円、候補地である横浜港・山下埠頭(約47ヘクタール)周辺の交通渋滞対策の検討・調査費に9,500万円を計上している。
  また、市民から根強い懸念の声があるギャンブル依存症や治安の悪化などの対策費として1千万円、さらに市民説明会や広報紙の他に、シンポジウムを開催しての有識者による講演や海外の事例紹介などに5,500万円を計上している。

  IRの立地区域は第一段階として全国で最大3ヵ所が認められる。これまでに横浜市、大阪市府・市、和歌山県、長崎県の4地域が誘致を表明している。  
  横浜市のIR誘致に向けては、既に米カジノ大手のウイン・リゾーツや香港が拠点のメルコリゾーツ&エンターテインメントなどが横浜市内に事務所を開設している。日本企業では、既に韓国の仁川市でIR運営に携わっているセガサミーが参入方針を明らかにしている。
  また、2025年に大阪万博の開催が決まっている大阪府・市では、オリックスが米IR大手のMGMリゾーツ・インターナショナルと提携して参入を目指している。

  ところで、ギャンブルが合法化されていない日本ではカジノもIRも全く馴染みがない。私自身もカジノ=賭博のイメージしか無い。そこで、新聞、新書、などを読んでみた。

  先ずは、産経新聞令和元年12月14日の記事「統合型リゾートIR シンガポール最新事情」より。
  シンガポール・チャンギ国際空港から車で約20分、天空に浮かぶかのような屋上プールが特徴的なシンガポールのホテル「マリーナベイ・サンズ(MBS)」が視界に飛び込んでくる。その特徴的なフォルムは今や、マーライオンと並ぶシンガポールの象徴となった。

  日本からの宿泊客が非常に多いというMBSは、2,500室以上あるホテルやプールで有名だ。しかしその実態は、シンガポール当局が認可したカジノ施設、劇場や美術館、大型会議室を含むコンベンションセンター、レストランや有名ブランドショップが連なるショッピングモールなどを備えた巨大IR施設なのである。

  手がけたのは米ラスベガスで「ザ・ベネチアン・ラスベガス」などのホテルやカジノを運営する「ラスベガス・サンズ」。MBSと「リゾート・ワールド・セントーサ」という2か所のIRが開業した2010年以降、シンガポールを訪れる観光客は1,600万人から1,850万人に増えた。「多くの雇用が生まれた。間違いなく地元経済に良い影響があった」と現地在住の日本人は振り返る。

  日本と同様、ギャンブル依存症の増加が懸念されたシンガポールでは、政府が経済力に不安を抱える自国民を入場禁止にするなどの厳しい規制を敷いたほか、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の新たな法律も制定した。その結果、ギャンブル依存症だけでなく犯罪件数も減少するという好循環になっている。
  確かに、私自身もシンガポールに住む知人から「経済的に不安のない自国民でも、家族が一人でも反対すれば入場禁止になる」と聞いている。

  日本にできるIRは、どんな施設になるのか。昨年7月に制定された「IR整備法」によると、日本のIRは@カジノA国際会議場や展示施設B劇場など日本文化の発信拠点C観光促進施設D10万平方メートル以上の宿泊施設ーなどから構成される。「IRの効果を全国に波及させる」ことを目標に、特に観光促進に力を入れているのが「日本版IR」の特徴だ。

  と、している。

  次に、「IRで日本が変わる カジノと観光都市の未来」日本MGMリゾーツ社長 ジェイソン・ハイランド 角川新書 から 
  筆者は、2017年に駐日アメリカ臨時代理大使(キャロライン・ケネデイ駐日アメリカ大使の後任)からラスベガス最大手企業、MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人、日本MGMリゾーツの社長に就任する。外交官としての経歴が長く、福岡、大阪、札幌、東京など15年以上日本に在住している。

  著者は、先ず「IR=カジノ」という一般的なイメージを否定する。IR整備法が定めるIR内におけるカジノが占める面積の割合は3%に過ぎないことを強調する。
  IRの主役はカジノではないとすると、その他には何が含まれるのか。それは、先ずは数千規模の客室を擁するホテルが入る。そのほかには、美術館、公園、アリーナ、劇場、温浴施設などが作られることになるだろう、と言う。さらに、IRの目玉が、MICE施設(会議Meeting,研修・招待旅行Incentive Travel,国際会議Convention,展示会・見本市、イベントExhibition/Event)だとする。
 
  日本には世界レベルで通用するような国際会議や国際展示会を開催するための対応力が不足している。
  アジア・大洋州ににおけるMICE施設の現状を見てみると、施設全体の面積、最大収容人数のみならず、個別の会議場や展示ホールでも中国、香港、シンガポール、韓国、オーストラリアなどと比べると見劣りがする。

  例えば、現在日本最大の会議場であるパシフィコ横浜の会議場合計面積1.3万u、収容人数12,483人、最大の会議場面積4,603u、収容人数5,002人に対して、シンガポールのSuntec Singapoleの合計面積は1.5万uであるが、収容人数は約31,000人、最大の会議場面積は12,000u、収容人数12,000人である。
  韓国・ソウルのCOEXでさえ、合計面積1.8u、収容人数16,000人、最大の会議市場は面積7,281u、収容人数7,000人である。

  また、日本最大の国際展示場は東京ビッグサイトであるが、展示ホールの合計面積は9.7万u、展示ホールの最大区画は2.6万u(3区画連結)、ホール数12(うち、1ホールのみ1万u以上)、なのに対して、中国・上海の展示場は、合計面積40万u、最大区画2.7万u、ホール数16(うち、13ホールは2万u以上)、同じく広州のそれは、合計面積34万u、最大区画1万u、ホール数37(うち、13ホールは1万u以上)である。
  シンガポール、韓国も東京ビッグサイトの数倍の大きさのホールとホール数を備えている。

  さらに、由々しき状態なのが世界における日本での開催状況である。
  2015年の大規模な国際会議(参加者1,000人以上)の開催件数を見ると、日本は世界で17位となっており、アジア・大洋州の中でも、韓国(22件)、シンガポール(19件)、中国(17件)、オーストラリア(16件)に次いで第5位(15件)となっている。因みに1位のアメリカは56件である。(観光庁作成資料)

  アジア・大洋州の主要5か国(日本、シンガポール、豪州、韓国、中国)の国際会議開催件数に占める日本のシェアも、1991年には51%だったが、1991年には26%にまで低下している。
  また、都市別開催件数で見ても、1位のシンガポールでは2015年に156回開催されているが、東京ではその約半数の80件しか開催されていない。(観光庁作成資料)

  そして、なによりも今の日本にある会議や展示会を開くための施設には、一つの施設内で会議、展示会、宿泊、食事、息抜き(エンタテインメント)までの総てを単独で提供できる複合施設が無いのが現状である。
  これらのすべてを同じ場所で体験できるのがIRだと言う。

  さらに、著者はIRの原型を造ったとも言えるラスベガスについて紹介している。
  わずか200年ほど前に何もない砂漠の中に発見されたオアシスが、大恐慌後の1931年にギャンブルが合法化され、カジノができ、やがてマフィアも登場、大型リゾートホテルが建設されるが、1990年代には巨大なテーマパーク型ホテル群が登場、ギャンブルの街から家族ぐるみで楽しめる総合エンタテインメント・シテイーへと変貌する。2000年以降は、ファミリー路線の見直し機運が高まり、近年は高級ナイトクラブ、高級ショッピングモール、高級レストランなどが増え、大人向けの高級総合エンタテインメント・シテイーを目指す方向に変化してきている。

  1990年代以降のホテルの建設ラッシュに伴う宿泊施設の急増は、国際会議や国際見本市などのイベントの誘致にも拍車をかけ、巨大なMICE施設の新設、拡充にもつながり、今や施設総面積、イベント開催数、参加人数において世界最大、最多となっている。また、これらのイベントに人が集まることによりホテル、レストラン、カジノなどの収益も伸び地元経済が活性化することにもなるため、官民一体となっての誘致活動が活発に展開されている。
  1990年代には、ラスベガス全体の売上高の60%がカジノによる収入だったのが、現在ではカジノによる収入は30〜35%であり、カジノ以外の収入が65〜70%という割合になっているという。

  IRが抱える課題として、マネーロンダリングとギャンブル依存症については、ラスベガスに於けるMGMの実情について以下のように述べている。
  
  マネーロンダリングについては、カジノを運営する企業は、連邦法である銀行秘密法(Bank Secrecy Act)の下で操業し、さらにすべての金銭的取引はマネーロンダリングを監視する金融犯罪執行機関連絡室(Financial Crimes Enforcement Network)という連邦組織の指導下に置かれていて、カジノ運営側自身も、独自の反マネーロンダリング対策を設定し、ネバダ州ゲーミング委員会からの承認を受け、そのルールに従って運営が許可される仕組みができあがっている。

  現在の米国カジノ業界では、顧客の身元を確認する対策が講じられていて、その資金源がわかるような仕組みができている。また、カジノのオーナーは身辺調査をされるだけでなく、ゲーミング委員会の厳しい資産調査を受けなくてはならない。さらに、施設内にはいたるところに監視カメラが設置され、従業員、デイーラー、プレーヤーのすべての動きを監視、録画している、という。

  ギャンブル依存症への対応策として、MGMではすべての全米の施設に「ゲーム・センス」というプログラムを導入している。例えば、自分の予算を決めて、それ以上はカジノにのめり込まないように楽しむ方法を提示したり、カジノの各ゲームの勝率を明白にし、それを理解した上で責任を持ってプレーして貰うという。

  再び、新聞などの情報によれば、
  日本では、既にIR誘致を巡り汚職事件が起きている。カジノの健全な運営を確保するために政府は「カジノ管理委員会」の設置を決めている。

  産経新聞令和2年1月11日の記事によれば、管理委員会は内閣府の外局として1月7日に発足。元警視総監や精神科医らで構成し、事務局長は10日付で警察庁出身の徳永崇内閣審議官が就いた。
  政府は2020年代半ばのIR開業を目指しており、管理委はカジノ運営事業者の財務状況、反社会勢力との関係を調査して免許を付与。ゲームの種類など運営ルール作り、ギャンブル依存症やマネーロンダリング(資金洗浄)の対策も担う。と報じている。

  政府や横浜市の日本版IR導入に向けた動きについてはネット上に詳しく公開されている。
  横浜市は2019年5月27日に、カジノを含む統合型リゾート施設の横浜市内での開業を希望する12の事業者グループの提案を含む資料を市のホ−ムページ上に公開している。
  応募した12の全事業者グループが山下埠頭をIRに想定していて、開催後の経済効果は年間7,700億円〜1兆6,500億円にのぼると試算している。
  横浜市ホームページは、city.yokohama.lg.jp 。また、みなとみらい21地区など周辺の再開発計画や大阪夢洲のIR誘致構想などについては、downtownreport.net が、参考になる。

  横浜市は、市民説明会を昨年12月の中区を皮切りに、今年3月までに全18区で終了する予定だったが新型コロナウイルスの影響により残り6区の説明会を当面延期すると2月20日に発表した。
  市民にはカジノに関するギャンブル依存症の拡大や治安悪化を懸念する声も多く、さらに東京都がいまだに誘致に関する態度を明確にしていない、などの不安材料がある。

  私は昭和39年から4年間、世田谷の成城から大学に通った。当時の大学は京浜急行の横浜駅から4駅先の南太田の丘の上にあった。この丘は清水が丘といい、晴れた日には大学の校舎から富士山が見えた。今は大学は保土谷のゴルフ場跡地に移転して、清水が丘は地図で見ると公園になっているようだ。
  南太田駅から大学があった清水が丘までの道は地元の商店街を通って登って行くのだが、我々学生は「ドヤ街」を抜けて大学に辿り着くという言い方をしていた。

  当時の私の横浜に対するイメージは、あまり良いものではなかった。何しろ道路が整備されてなく、町全体がゴチャゴチャした印象しか残っていない。当時の横浜は革新系の市長が続いて、道路行政が遅れてしまったということが言われていた。また、南太田から横浜に向かう途中駅の黄金町や日ノ出町には、ドヤ街のイメージの他に「親不孝通り」と呼ばれる売春街があると学生の間にも知れ渡っていた。
  たまに、ゼミの集まりなどで中華街に繰り出すことや、先輩に連れられて「クリフサイド」というダンスホールなどに行くこともあったが、奥手だった自分はフェリス女学院との今で言うところの合コンなどにも出たことはなかった。

  大学を卒業して、損害保険会社に入社してからも何度か横浜を訪れることはあったが、仕事の場合は関内や本牧などの限られた地域であったし、たまに私用の場合もドライブがてら中華街や元町で食事や買い物をするくらいであった。その間には地方転勤があったりして、暫くは横浜のことは忘れていた。
  この2,3年、久し振りに横浜を訪れる機会があって、その変貌ぶりに驚いた。そして、昔のイメージや今まで深くは知らずにいた横浜の歴史や文化、遺跡、遺構を含めて、改めて見直してみたいと思った。

  今回のIR誘致について、まだまだ入り口に立っただけだが、横浜市が一縷の望みを抱かざるを得ない事情も見えてくる。首都東京に近いことで、若い働き手や大企業が東京に吸い寄せられてしまうことや、海外からの観光客についても同様のことが起こっているという。良くも悪くも、東京の大きな磁力に打ち勝って行かねばならない宿命にあるのではないかと思う。

  ただ、横浜には横浜にしかない独特な魅力もあることは確かなことであると思う。それをどう生かしていくのか、決して易しいことではないと思うが、IRがその起爆剤になればと思う。
  少なくとも、日本はIRの経験に於いては世界に、そしてアジアにも現状では相当に後れを取っている。先行している他国の事例から学ぶことは多い筈だ。日本の英知を結集して、したたかな外資を含む運営事業者と渡り合うことも決して無駄にはならないと思う。尻込みばかりしていては、道は開けないだろう。
       
<追記>
  余計なことかも知れないが、横浜について2019年12月26日の産経新聞に、気になる記事があった。
  「年の瀬 記者ノート」という記事である。「寿町の簡宿 火災前に孤独死者」という見出しである。

  正月の三が日が明けた1月4日、横浜市中区寿町の簡易宿泊所(簡宿)で火災が発生し、消防は当初、犠牲者は3人と発表したが、すぐに2人に訂正された。理由は、火が出る前にすでに何らかの原因で男性1人が簡宿内で死亡しており、「頭数」に含まれていたからだった。

  寿町といえば、JR根岸線の線路を挟んですぐ向かいには、観光客でごった返す横浜中華街や、横浜スタジアムがある。寿地区とも呼ばれるこの街は、約6万平方メートルの中に1泊1千〜2千円台の簡宿が100軒以上林立し、東京都の台東区と荒川区にまたがる山谷地区、大阪市西成区のあいりん地区と並んで、日雇い労働者が集まる「日本三大寄せ場」の一つに数えられてきた。

  昭和40年代には「集団強盗が一夜に20件は起きていた」という”無法地帯”として恐れられていたという。
  だが、その後のバブル経済の崩壊に伴い、建設関係の仕事が激減したことに加え、住人の高齢化も顕著となり、現在では「日雇い労働者の街」から「福祉の街」に変貌したという。

  警察関係者によれば、「伊勢佐木署の管内では今年、12月上旬までに、医師の診断書が無く、死亡理由が犯罪に起因するものかはっきりとしない、検視が必要な遺体は200体あった。うち6割、約120体は寿地区の簡宿で発見されている」という。

  記事は、さらにこれらの遺体は殆どが引き取り手が無く、市によって荼毘に付され、同市西区の高台に広がる市営霊園「久保山墓地」の片隅にある、高さ5メートルはあろうかという「横浜市無縁物故者納骨堂」(碑には「無縁供養塔」と書かれている)に保管される。5年が過ぎた古い遺骨は、増え続ける遺骨の保管スペースを確保するため、業者の手によって粉砕され、塔の裏手にあるコンクリート製の墓に数百人分まとめて納められる、と書いている。

  横浜には異国の雰囲気を今に伝えるエキゾチックな面と、高層ビルが立ち並び、豪華客船が停泊する近代的な港湾の面とがあると同時に、未だに現代の日本からは取り残されたような街が隣り合わせに存在するという、何ともアンバランスな印象を持ってしまうのである。

  後日、横浜市営地下鉄ブルーラインのあざみの駅から関内駅まで乗車する機会があったが、地下鉄の関内駅からJR根岸線の関内駅を通って大通り公園まで、地下道を歩いて行くと地下商店街と目と鼻の先の地下道に、昼間にも関わらずホームレスが結構な人数たむろしているのには、少なからずショックを受けた。
  また、つい先日はコロナ禍の関内に私用で出かけた際に中華街に寄ってみた。普段なら観光客で賑わう街は人影もまばらで、打ち捨てられたゴミが散乱していた。

  横浜だけではないと思うが、IRを誘致する前に、まだまだやらなければならないことがあるのも残念ながら現実である。

<追記の追記>
  今日は、4月29日。外は爽やかな青空と新緑が目に眩しいのに、新型コロナウイルスのお陰で出かけることもできない。

  徒然なるままに、以前読んだ本をパラパラと捲っていたらカジノの文字に、目が止まった。「トランプ自伝」、彼が大方の予想に反して第45代のアメリカ合衆国大統領になってすぐの頃に購入した文庫本だ。

  本の裏書には、こう書かれている。
  ドナルド・トランプは、1980年代に「トランプ・タワー」「トランプ・プラザ」などの大規模開発を次々に手掛け、「アメリカの不動産王」として名を馳せた。一代で巨万の富を築いたその成功の裏には、大胆な発想と綿密な計算、そして粘り強い交渉力があった。市当局や銀行との折衝、提携先やライバル企業との攻防などを生々しく描き、全米ミリオンセラーとなった初の著書。

  241ページ、8賭博ーボードウオークのカジノ から、一部を抜粋する。
  カジノ経営がいかにもうかる商売かを知ったのは、1975年末のことだ。ある日、コモドア・ホテルの取引についての会合に出るため車に乗っていると、ラジオでニュースを流し始めた。アナウンサーの報告によるとネバダ州ラスヴェガスで、ホテル従業員がストを行うことを決議し、その影響の一つとして、ラスヴェガスに二つのカジノを持つヒルトン・ホテルの株価が大幅に下落したという。

  その頃にはホテル経営についてある程度の知識はもっていたが、それでもこのニュースには驚いた。世界中に少なくとも百のホテルを所有している会社が、そのうちのたった二つがストライキを起こしたために株価がそれほど打撃を受けるとは、一体どういうことなのか?

  オフィスに戻って調べると、すぐに答えがわかった。ヒルトンは世界各国に百五十以上のホテルを持っているが、ラスヴェガスにある二つのカジノつきホテルだけで、会社の純益の40%近くをあげているのだ。それに対し、たとえばニューヨーク・ヒルトンは、会社全体の利益の1%足らずしかあげていなかった。
  ニューヨーク・ヒルトンといえばニューヨークの最大手ホテルの一つであり、莫大な収益があるものと
思っていた。私は考え込まざるを得なかった。それまで二年近くの間、私は42番通りに巨大ホテルを建てるために、日夜かけずりまわってきた。それでもまだ認可はおりず、資金調達のめどもたたず、このままでは計画そのものがつぶれてしまう可能性も大いにあった。

  そして、たとえ建設にこぎつけ、それがこの世界最大の都市で成功を収めたとしてもたいしたことはない。南西部の砂漠の中の小さな町でそこそこ繁盛しているカジノつきホテルのほうが、それよりはるかにもうかるのだ。そのことにはじめて気がついた。

  中略

  私は賭博が不道徳だと思ったことはない。これに反対する人の大半は偽善者だと思う。世界最大のカジノは、ニューヨーク株式取引所だ。普通のカジノと違うのは、ここではばくちを打つ人がみなブルーのピンストライプの背広を着て、皮のアタッシュケースを持っていることだけだ。
  株式市場では世界中のカジノで扱われる金を全部合わせたよりもっと多額の金がもうかったり失われたりする。株式市場に金を賭けるのが許されるのなら、ブラックジャックやサイコロばくちやルーレットに金を賭けることも許されていいはずだ。

<5月15日 さらに追記>
<ラスベガス・サンズ、日本でのカジノプロジェクトを断念>令和2年5月13日 Bloomberg news Chris Palmen,Lisa Du

  世界最大のカジノ運営会社、米ラスベガス・サンズは日本での統合型リゾート施設(IR)事業ライセンス取得を断念する。世界のカジノ業界にとって日本は極めて大きな商機があると見込まれ、同社は長年この取得を目指してきた。

  事情に詳しい複数の関係者によると、ラスベガス・サンズは少なくとも2005年から日本での事業拡大を探ってきたが、IR整備法の一部条件に経営幹部が不満を示していた。

  特に大きな障害となったのは、ライセンスの有効期間が10年と短く、その期間内ですら日本の中央官庁や地方自治体が参入企業の利益を損なうような形で条件を変える可能性があることだった。ラスベガス・サンズがマカオとシンガポールに有するカジノリゾートのライセンスはそれぞれ20年、30年有効だ。

  同社を創業した資産家のシェルドン・アデルソン氏は、これまで培った日本での関係に謝意を示しつつ、「当社のエネルギーを別の好機に集中させるべき時期だ」と発表文で説明した。

  菅義偉官房長官は13日午後の記者会見で、「個別の動向についてコメントをすることは差し控えたい」とした上で、IR整備に向けた基本的スケジュールに変更はないと述べた。「観光立国を目指すわが国にとっては不可欠」と引き続き整備に向けて意欲を示したが、規制については「今まで決定したことを変更することは考えていない」と説明した。

  16年にIR整備推進法が施行されて以来、日本のカジノ市場がマカオに次いでアジア2番目の規模となり得るとのアナリストの予想も浮上したが、ここ1年は、カジノ関連企業の関心は低下している。

  米シーザース・エンターテインメントは同業エルドラド・リゾーツとの合併や米国事業に注力するとして、日本でのIRライセンス取得に向けた活動を昨年8月に中止すると発表、マレーシアの観光業大手ゲンティンやギャラクシー・エンターテインメント・グループは撤退し、MGMリゾーツ・インターナショナルは、大阪でのライセンス取得で勝者となった。

  世界屈指の富豪でもあるサンズのアデルソン氏は日本進出に際し、ラスベガスやマカオ、シンガポールでの実績と同様、カジノとホテル、会議場を含む統合型リゾートに100億ドル(約1兆700億円)を投じる用意があると述べていた。

  複数の関係者が匿名を条件に語ったところによれば、リゾート建設に5年を要する可能性を考えると、その規模の投資に対する十分なリターンを確保するには10年間のライセンス期間は不十分だった。日本の地価や人件費は高く、銀行は建設費の半分超の融資に消極的だったという。

<米IR大手、日本事業参入を断念 新型コロナで業績悪化> SankeiBiz 令和2年5月14日配信

  カジノを含む統合型リゾート施設(IR)運営の米最大手、ラスベガス・サンズが、日本での事業参入を断念したことが13日、分かった。新型コロナウイルスの感染拡大で、業績が悪化したことが響いた。横浜市でのIR開発参入を目指していたサンズだが、最大手の参入断念は、ほかのIR事業者の判断にも影響を与えそうだ。

  12日付で発表した。サンズは当初、大阪でのIR参入も目指していたが、昨年の横浜のIR誘致表明を受け、大阪参入を断念した。米国、マカオ、シンガポールでIRを展開し、日本では1兆円規模の投資を計画していた。ただ、新型コロナで客足が減ったことなどを受け、米国とシンガポールのIRを閉鎖。2020年1〜3月期決算は売上高が前年同月比51%減の17億8000万ドル(1905億円)に落ち込み、最終損益は5100万ドルの赤字に転落した。

  また、日本での参入が認められても、付与される事業免許の有効期限が短く、収益性に問題がある点なども断念の理由であると、米ブルームバーグが指摘している。サンズのシェルドン・アデルソン会長は声明で「日本におけるIR開発の枠組みでは私たちの目標達成は困難」とし、「私たちは今後、日本以外での成長機会に注力する」と表明した。

  IRをめぐっては、新型コロナの各国の運営事業者への影響が深刻化しており、主要市場であるマカオ、シンガポール、米国で、相次ぎ施設が閉鎖に追い込まれている。
posted by ぼたん園々主 at 00:22| Comment(0) | 日記
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